今回の構造解説では、この度の復活に際して新しく追加された要素を解説していきたいと思います。
前回同様、谷シャツ通販サイトにて、トランクスの写真を沢山掲載しておりますので、掲載写真と一緒に文章をご覧いただきますとより一層内容が伝わりやすいかと思いますので、ぜひ併せてご覧ください。
トランクスの画像は下記のリンクよりご覧ください。
https://tanishirt.thebase.in/categories/3069175
・前空き構造・
今回の復活に際して仕様変更された部分で、最も大きな点が前空き部分へ剣ボロ状の構造バランスを採用したことです。
剣ボロとは、シャツの袖口に必ず存在する「剣」の形を連想させるパーツの事です。
この構造を取り入れることで今までの谷シャツトランクスを、よりシャツ屋らしいトランクスへ進化させるために取り入れた構造になります。
具体的にどういった事かと言いますと、シャツとトランクスでは人の身体を包む衣類という点では同じなのですが、型紙やパーツ配置のバランスなど、基本的な考え方が異なっており、その構造バランスをシャツと同様のバランスへ変更する目的で剣ボロ構造を取り入れたのです。
たとえば、衣類には「身頃中心線」と呼ばれる、衣類構造の基点に成る線が存在し、人間の身体の中心線と重なるように配置されます。
シャツ場合では、この中心線を起点にデザインや寸法を配置し、この中心線上にボタンとボタンホールが重なります。
こういったシャツの基本構造を新しいトランクスが取り入れることで、私達の持っているシャツ作りで培った考えを注ぎやすく成り、本当の意味でシャツ屋らしいトランクスにすることが出来るのです。
・・左右対象構造・・
トランクスの構造バランスをシャツの構造バランスと同様のモノへ変更する事で得られるメリットについて書いていきます。
もっとも大きなメリットは、左右対称なトランクスを作れるようになった点です。
旧トランクスの構造では、身頃中心線に対して釦の取り付け位置が左へずらした位置にしか配置できず、前回の解説でお話したお腹を支えるフロントパーツや、足さばきを良くする為に入ったフロントタックなども、釦の配置に合わせる形で左寄りのバランスに配置されていました。
しかし、今回の剣ボロ構造を取り入れることで、身頃の中心であり身体の中心で有る身頃中心線上へボタンを配置することが出来るようになり、フロントパーツとフロントタックも それぞれを身頃の中心線に対して左右対称に配置することが出来るようになったのです。
このようにパーツやデザインを左右対称に配置できる最大のメリットは、体の動きに追従しやすく、足さばきを向上させることが出来る点です。
左右のパーツが対象に配置されているという事は、構造も左右対称であり、左右の生地の分量(配分や重量)が左右対称で有るという事になります。
歩く際に足を、後ろから前、前から後、と動かしますが、左右の生地が均等に配置されていますと、こういった動きで生地に掛かる動きや力も均一に成りやすく、ズボンの中でトランクスの生地が行ったきり帰ってこないといったことが起きにくくなりますので、足さばきが良く、結果として履き心地が向上するのです。
このような変化は詳しく比べてみて初めて分かる様な僅かな変化ではありますが、こういった部分にも目を向けて改善を図る事が、私達のシャツ造りの考えでもありますので、こういった考えをトランクスへも反映できたことは大変意味の有る事です。
・・前空き構造について・・
旧トランクスの前空き構造は、以前から気になっていた部分で、トランクスの再開を決めた当初から変更するつもりで考えていました。
今後の谷シャツトランクスはトランクス専門の人間が縫うのでは無く、シャツを縫っている人間が兼任することに成りますので、シャツと同様の構造バランスで縫えるトランクスは縫っている人気にとっても腑に落ち、考え方の違いを意識しないで縫っていけますので、こういった点でも構造バランスを変更する意味は大きかったのです。
前空き部分へ今回の構造を採用した物はボトムスの構造としても珍しく、かなりこだわりを持って取り入れた構造ですの、是非お試しいただきたく思います。
・ウエストゴムの見直し・
旧トランクスにおいて時折指摘された点で、ウエストゴム部分が硬くゴロゴロした肌触りになってしまうというモノが有りました。
谷シャツトランクスではウエストのゴム部分はシャツ生地でおおわれており、張りが強いシャツ生地の場合はどうしても硬くなってしまいがちでした。
今回の復活に際してこの部分はかなり試行錯誤を繰り返しテストを重ねた部分です。
・・縫い本数を減らす・・
様々実験を繰り返すうちに分ったウエストゴム部分が硬くなってしまう原因は、ミシンで縫っている回数が原因だという事が分かりました。
生地を織り上げる糸に比べて、一本の糸の状態で耐久力を必要とされる縫い糸は大変太く、これらが縫い集まると生地の持っている風合いは失われ硬くなってしまいます。
旧トランクスはウエストゴムを生地で包んで縫い付ける工程で計5回縫ていましたが、今回の新トランクスからはこれを2本まで減らす事にしました。
縫う本数が減る事で耐久力の低下が気がかりかもしれませんが、この点に関しては問題ありません。
そもそも構造的に複雑な部分では無く、冷静に考えればウエストゴムを生地で包んでトランクス本体と縫い付けるだけですので、最低限の縫い本数でいいはずです。
それに、縫い数が多く生地が硬くなってしまうと擦れに弱くなってしまいます。
これは、シャツの衿やカフスは硬いので擦れに弱く傷みやすいのに対して、身頃は意外と長持ちするのと同様の考え方です。
今回は今まで縫い止めていた部分をあえて縫わなかったため全体にフンワリした柔らかい仕上がりに出来ました。
縫い代と呼ばれる内側に入って表からは見えない生地の量を増やしていますので滑脱の心配もありません。
・・ウエストゴムについて・・
新旧トランクスのウエストゴムは2.5センチ幅の太いゴム一本で構成されています。
実を言いますと、この太いゴムを生地で包みトランクス本体へ取り付ける工程はは非常に難易度の高い作業です。
両腕でゴムを伸ばしながら、縫い位置に固定して均一な力で縫わなければならないのですが、これが非常に難しい。
試作当初はあまりの難しさに、高級パジャマなどで多く採用されている、細いゴムを複数本平行に並べて使い一本のウエストゴムとする方法も考えましたが、それではゴムが縮む力が弱くお腹のパーツを引き寄せる力が全く足りませんでした。
諦めて縫う練習と取り付け方法を工夫するうちに現在の品質に至りました。
あまり目立たない部分ですが、技術やノウハウがぎっちり詰まった、思い入れの強い部分に成ります。
・変更しなかった部分・
上に書いた部分のように、積極的に変更できた部分も有りますが、最後の最後まで悩んだ結果変更に至らなかった部分も有ります。
ここではその部分に関して触れていきたいと思います。
・・裾部分の切り込み・・
左右の裾部分にV字の切り込みが入っているのですが、この部分は変更するか否か迷った部分です。
単純なV字の切り込みなのですが、それなりに手間が掛かりますし、生地を使う分量が大分増えてしま為です。
しかし、デザイン的なアイコンとしてとても優秀で、これが有ると無いとでは雰囲気が全く異なります。
普通のズボンの様な両脇の縫い目が無い谷シャツトランクスのデザインでは、このV字の切り込みがなくなると、脇部分に何も無く殺風景で間の抜けた印象になってしまいます。
機能性や構造を突き詰めたトランクスの中で、唯一入った遊びの様な部分と考えていましたが、見た目上欠かせないアイコンと考え直し、変更を取りやめました。
・・切り替えの追加・・
こちらは、左右の脇部分に切り替えを追加してもう少し立体的なトランクスにするかを悩みました。
「切り替え」とは生地と生地をつなぎ合わせて一つの形を作る事ですが、切り替えを増やすことで立体的な人間の身体を多面で包むことができるので、立体的でより体に沿った衣類を作る事が出来ます。
V字切り込みの部分でも触れましたが、谷シャツトランクスは脇部分に切り替えが有りません。
この部分に切り替えを追加することで、よりフィット感の強いトランクスにするかを悩みました。
しかし、ウエストゴムの時に開設した通り、縫い数が増えれば僅かながら硬さが出て、生地の風合いを楽しむという考えが少しずつ弱まりますし、旧トランクスその物の復活を望む声が一定数有りましたので、あまり大きな変更を加えることを今回は見送りました。
ですが、全く新しいトランクスとして別モデルを追加する可能性も有りますので、切り替えの追加についてはその時に入れる要素にしようかと考えています。
・最後に・
二回に渡り、長々と書いてしまいましたが、如何でしたでしょうか?
実際の所、前後編に分けてまで書きましたが、このページをご覧の皆様にお伝えしたい事の半分くらいしか載せることが出来ませんでした。
ご覧になって、「ちょっと意味が分からないな」や、「ん?話がとんでいる?」と感じた方もいるかもしれません。
新しい前空き構造の採用に関しての部分を中心に、もっとお伝え出来ること、お教えしたいことが沢山あるのですが、流石に分量の問題もあり、大幅に減量してあります。
私の熱意を最も注いだ部分でもありますので、皆様に知っていただきたいという想いはあるのですが、独りよがりになってしまわないようにとストッパーをかけています。
もしもっと知りたい、興味がある、という方には、是非とも私に直接尋ねてください。
溢れ出す熱量を以って、疑問にお答え致しますので(笑)
他に類を見ない独特なデザインが特徴的な谷シャツトランクスですが、そういったデザインにどの様な意味が有り、どういった効果が得られるのかを今回は解説していきたいと思います。
谷シャツ通販サイトにて、トランクスの写真を沢山掲載しておりますので、掲載写真と一緒に文章をご覧いただきますとより一層内容が伝わりやすいかと思いますので、ぜひ併せてご覧ください。
トランクスの画像は下記のリンクよりご覧ください。
https://tanishirt.thebase.in/categories/3069175
写真をご覧いただければお分かりになるように、トランクスとしても単純にボトムスとしても、とても珍しいデザインを採用しているのが、谷シャツトランクスの第一印象だと思います。
この特徴的なデザインの源流は、「ネイビーパンツ」と呼ばれていた、アメリカ海軍の兵士たちの間で着用されていたトランクスのデザインを元に作られたものです。
正確な記録は残っていませんが、50年以上前には現在とほぼ同じ姿で既に弊社にて扱っていたことは分かっています。
おそらく、開国後に横浜へやって来た西洋人がシャツを日本へ持ちこんだ事が日本におけるシャツの始まりになった時と同様に、トランクスの場合は第二次大戦後に進駐軍が日本へ持ち込み、コピーオーダーをしたことなどが始まりではないかと推測しております。
一昔前はどこのシャツ屋でも、トランクスは当たり前に扱われたアイテムの一つでした。
各店、ベースは同じ「ネイビーパンツ」だったのかもしれませんが、店ごとに独自の創意工夫を施し、数あるシャツトランクス同士鎬を削っていたようです。
残念ながら現在ではそういった独創性のあるシャツ屋のトランクスもほとんど目にすることは無くなり、一般的な量産ベースのウエストが総ゴム仕様のトランクスが主流となってしまいました。
念願叶って10年ぶりに復活しました谷シャツトランクスですが、その頃の設計思想や基本的な構造デザインは変えぬまま現在に蘇ります。
もちろん、只々古いデザインと言うだけの価値では無く、トランクスと言う用途と履き心地を追求し、現代のトランクスとは異なる終着点へ到達した貴重な逸品で有ると考えております。
今回は、谷シャツトランクスの受け継がれ続けるデザインや構造的な特徴をお話していきたいと思います。
【下腹を支え、安心感のある独特な履き心地を作り出すフロントデザイン】
谷シャツトランクスの一番の特徴は、お腹を支えるような独特な履き心地です。
この履き心地を生み出す要は、谷シャツトランクス最大のアイコンでもあり、他のトランクスとの一番の違いでもある、フロントデザインになります。
谷シャツトランクスのフロントデザインは、通常のトランクスと異なりフロント部分のウエストゴムベルトが無く、フロント部分のパーツは体にフィットしてお腹界隈を支えるようにデザインされています。
この前身頃部分のパーツを、後身頃部分のウエストゴムが後方向へ引っ張る事で、お腹を支えるような着心地を生み出しているのです。
つまり、通常のトランクスのウエストゴムと異なり、脱ぎ着のし易さやサイズの自由度を上げるためというよりも、谷シャツトランクスの場合はフロントパーツを引っ張ることが主だった仕事になっています。
それ故、谷シャツトランクスを脱ぎ着する場合には、ゴムを伸ばして穿くのでは無く、フロント部分の釦を外し、前を開けてからトランクスを履き、釦を止めるという、いかにもシャツ屋のトランクスらしいシャツを連想させる前部分を開閉して脱ぎ着する機構を取り入れているのです。
谷シャツトランクスは50年前の段階で既にウエスト後方部分へ現在と同じ様にゴムベルトが使われておりましたが、後身頃へベルト状の帯や紐が取り付けられており、それを使って固定するようなタイプも存在したようです。
【足さばきを考えたフロントタック】
通常のトランクスと異なり、フロントにゴムベルトを持っていない谷シャツトランクスの前身頃は、通常のトランクスよりもユトリが少ない構造になっています。
そこで加えられたのが、フロントの左右一本ずつのタックです。
分量としては僅かに感じられるかもしれませんが、左右太ももの中心をめがけて展開していますので、非常に効果的に配置されています。
肝心のお腹周りのフィット感を損なわない為、お腹を支えるパーツの下側から展開している点もポイントです。
【ヒップを包み込むように設計された後身頃】
後身頃部分はヒップを左右と下側から包み込むように工夫した設計になっています。
これを実現しているのが、後身頃の二本の切り替え線を中心とした後身頃のデザインです。
衣類において生地を切り替える構造を取り入れる目的は、衣類に立体感を与える事が目的になっています。
このトランクスの後身頃部分は「ヒップの後部分」「ヒップの左右後側面部から側面部」「ヒップの底に向かって」の4面に対して立体的な支えかたをするよう設計されています。
先ず、二本の切り替えに挟まれた、後中心部分は尾てい骨などが有るヒップの一番後ろ側を支え、二本の切り替えに対して左右に展開する生地は、ヒップの後左右側面からヒップの側面に至るまでの広い範囲をカバーします。
そして、このトランクスの特徴的な構造の一つであるのが、脚の付け根を前に動かした際に、ヒップの底付近から前に向かう脚のに向かってホールドする様に生地が展開されている点です。
つまり、通常のトランクスやボトムスの様に脚を通す左右の穴部分が、下に向かって空いているのではなく、体の前方へ向かうように設計されているのです。
この構造がどういった姿勢に向いているかと言いますと、ズバリ、座り姿勢です。
椅子に座ったり、腰を下ろしたりした際に生地がヒップを包み込むように設計されているのです。
こういった設計思想が当時のどのようなニーズから生まれたのかは、今となっては分からないのですが、私達はかねてからこの履き心地は、パソコンに向かって座って仕事をすることの多い現代人にこそ最適な履き心地であると考えていました。
座った際に生地がヒップを十分に包み込むばかりではなく、座った時に生地に掛かる負荷を二本の切り替え線が柱の様にしっかりバランス良く支えてくれるため安心感をもたらします。
また、この二本の切り替えは、立ち姿勢から着座姿勢、着座姿勢から立ち姿勢、こういった動きが起きた際には、トランクスの後身頃部分のユトリを展開収納しやすくするガイドラインの様な役目をかねています。
これらの効果を効率的に行えるよう、後身頃の切り替えは、丈夫で強い力に耐えられる、シャツの脇部分と同じ縫い方である「織伏せ縫い」を採用し、更に通常より巾を太く縫い合わせてあります。
オフィスワークやリモートワーク、御家でゆったりした時間を過ごす際など、何かと座り姿勢で過ごす時間が多いと思いますので、谷シャツトランクスを是非ご体感いただけましたらと考えております。
如何でしたでしょうか?
話し出したらばキリが有りませんが、これらが主だった谷シャツトランクスに受け継がれ続ける特徴になります。
古典的なものであるにも関わらず、実は現代的な技術論で紐解いた際に『理に適った』ものである、という面白さが伝わりましたでしょうか?
ただ、全てがすべて、更新する余地がないかと言われれば、そんなことはありませんでした。
次の回では、今回の復活に際して新規に取り入れた機構や改良点について書いていきたいと思います。
それでは、引き続き「谷シャツトランクスの構造解説2」も是非ご覧ください。
『オーダーシャツ屋』
世間一般でこの名称から思い浮かべられるのは、当然ですがシャツのオーダーです。
次いで多いのが、スーツを作っているお店でしょ?となります。
シャツとスーツは切っても切れない間柄ですので、仕方のないことではありますが。
ですが、オーダーワイシャツに馴染みの有る方や、扱っている素材などに気を向けられている方にとっては、シャツ屋の取り扱い品目に『ある物』が含まれていると考える方も少なくないのではないでしょうか。
トランクス、そしてパジャマです。
日本に限らず、高級オーダーシャツに使われる生地はその時代時代の最高峰であることは言うまでもありません。
シルクしかり、超長繊維綿しかり。
確たる縫製技能とハイエンド地の両方を備えるオーダーワイシャツ屋が、シャツ同様に素肌に纏う衣類を作成するようになるというのは想像に難くありません。
斯くして、私ども谷シャツ商会もトランクスやパジャマの取り扱いを長年に亘って行っておりました。
しかしながら、腕の良い職人の高齢化による生産力の減少を主因として、トランクスやパジャマまでをも生産することが年々難しくなり、ここ数年は取り扱いが出来ない状態となっておりました。
常々「パジャマはまだ復活しないの?」や、「もう以前買ったトランクスの手持ちがなくなってきちゃったから何とかしてくれよ」といったお声はいただいておりましたが、なかなかそちらにまで手を回すことが出来ずにおりました。
パジャマに関しましては、オーダーでナイトシャツ形式のものは何とかお請け出来ていましたものの、トランクスに関しては完全に生産停止状態となっておりました。
現在のコロナ下の状況で、ワイシャツの生産に空きが出来ているのならば、何とかトランクスも復活させられないものだろうかと考え、行動を開始しました。
元々特徴的であった『谷のトランクス』ですが、それをそのまま復活させるのではなく、細かなディテールの見直しを図り、より良いトランクスを。
時に感覚的に、時に理論的に、谷シャツ製のリファインされたトランクスを、今再び皆様にご覧いただきたく存じます。
詳しくトランクスの解説をした文章もございますので、以前のトランクスをご存知の方にはより良くなった点を、初めての方にはそのデザイン、特性、機能的・技術的根拠などを知っていただき、ご愛用いただければ幸いです。
谷シャツトランクスは下記オンラインショップでも取り扱っております、是非ご覧ください
https://tanishirt.thebase.in/